BONNIE PINK と烏賀陽弘道

まあ、多少なり英語の感覚がある人が聞いたときに、BONNIE PINK の歌詞というか歌そのものが「何だこれは」というキョーレツな違和感を抱く頭痛モノである、ということは事実である。トラバ先の人のように信者がいきりたって「勝利宣言」したところで、烏賀陽の罵倒込みの指摘は妥当するのであり、その後の BONNIE PINK の反論をじっくり読んだところで、出せる結論は「すれ違い」の「引き分け」がいいところだろう。

こんな、6年も前のことを急に書き付けたのは、別に BONNIE PINK の新曲もうっかり聞いてみたら違和感ありまくり(A Perfect Skyだっけ?)ということを云いたいからではない。当時、烏賀陽の書いた他の記事(BONNIE PINK 以外のアーティストの英語詞をやり玉に挙げていた)を読んで、この人の英語力は本人が言うほど高くはないのではないか、という感想を持ったことを思い出したからである。手元に資料がないので、記憶で書いておく。

その記事では、某ロックバンドの歌詞に "What do you think?" という表現が出てきたことを取り上げて、「このような表現は、大学の教授が哲学の質問をするときにしか出てこない」と烏賀陽は書いていた。もし、作詞者が意図したように「ねえ、何考えているの」と言いたければ、進行形にして What are you thinking? になるはずだ、と。

一般的な慣習を「現在形」で表し、時間の区切られた行為を「現在進行形」で表すという区別は、英文法の基本であり、これに関して烏賀陽は間違ったことを言っていない。よく例に出されるのが What do you drink? である。これは「何を(いま)飲んでいるの」という質問ではなく、相手が成人で、ふつうに酒を嗜むことを前提として、「(いつも)どんな酒を飲んでいるの?」と聞いているのである。

しかし、drink に関して妥当するからといって、think にも妥当するとは限らない。「あなたはどう思う?」というカジュアルな表現として、 What do you think? といっても全然おかしくないのだ。それこそググれば枚挙に暇がない。映画から例を引くと、ロドニー・デンジャーフィールド『バック・トゥ・スクール』の一シーンには、主人公の息子のルームメートが、無作法をとがめられて "What do you think?" (悪いか?)と聞き返す場面がある。別に、哲学を論じる場面でなくったって、普通に使われる表現なのである。

なんでこんな、言いがかりみたいなヘンな指摘を烏賀陽はするのだろうか。思うに、現在形と現在進行形の区別という「文法知識」だけがアタマにあり、実際の英語用例を考慮することなく、それに該当する J-POP の英語歌詞例をあさってみて、最初に見つけた例をこれ幸いとばかりに記事にしたのだろう。略歴を見ても、大学院だけアメリカというだけで、それ以前の英語体験が見当たらないので、体で覚えた英語ではないのだろう。頭デッカチのインテリ、という2ch某板の評価にも、直感的ながら当たっているところがあると思う。

5年の沈黙(?)を破って出版された「Jポップとは何か」は読んでいないが、この英語論争については、何か書いているのだろうか。ちょっと、怖いもの見たさで読んでみたい気もする。