「クリティカル・チェーン」

Goldrattのビジネス小説。本来は「ザ・ゴール」の次の次に出版された本なので、他の「ザ・ゴール2」や"Necessary but not suficient" より先に翻訳されてしかるべきなのだが、一年近く送れてやっと上梓されたようだ。なんかトラブルでもあったのかしらん。

内容については、非常に納得することが多い。しかし「個々のタスクを最短の理想納期で見積もりして、それを積み上げて全体のスケジュールを行い、バッファをすべてプロジェクトの最後にもっていく」という手法には、感覚的な抵抗を持つ人も多いのではないか。これは結局、中間マイルストーンを事前において、それを死守するというスタイルを否定することになる。しかし中間マイルストーンの当否は、進捗上の必要性だけで判断されるべきではなく、心理的な側面にも注目すべきだ。

クリティカル・チェーンを英語版で読んで、その思想にかなり傾倒していた私は、プロジェクト・マネージメントの研修会の席上での、ある成功したプロジェクトの社内リーダーによる発表を思い出す。彼は、会議を定刻通りに開始することの重要性を、ことさらに強調していた。「5時に始めることになった会議は、絶対に5時に始める。一分でも遅刻してきた人がいれば、その人に『何で遅れたんや』と5分ぐらいガァーッと説教したおす。そうやって、小さいところで納期をきっちり守らせることが、全体での納期を守ることにつながるんです」

すばらしいリーダーだ、さすが重要プロジェクトを切り盛りして成功させているだけのことはある、と感嘆する一方、絶対にこのひとはクリティカル・チェーンのような考え方には興味を示さないだろうな、という印象を抱いたのも事実だ。そして本邦の有能なPM/PLたちの大多数は、この社内リーダーと同じ意識で業務を行っているはずだ。翻訳書の出版が、彼らに少しばかりの軌道修正を強いて、クリティカル・チェーンの定着に貢献すること多なるを祈るばかりである。